2012年3月、シャープと鴻海の業務提携が発表された。
シャープは、大阪に本社を持つ液晶ディスプレイ技術に強い家電メーカーで、
鴻海精密工業は、台湾に本社を持つ世界最大のOEM生産請負企業だ。
従来は、自社開発した技術を駆使し、自社工場で生産・出荷するというのが
技術流出リスクを抑制できることもあって主流だった。
(ファブレス化へ、というのはここでは取り上げない)
今回の業務提携では、シャープが鴻海に技術供与することが焦点に挙がって
いる。具体的には、鴻海が四川省の成都に建設中の液晶パネル工場へシャープ
の技術者を派遣し、技術援助料を受け取るというものだ。この発表を受け、日本発
の技術が流出することや、国内雇用減を懸念する声が散見される。
俺は、この提携はアリと思う。家電、とりわけテレビに着目してみると、
グローバルレベルで供給能力がだぶついていることは推測できる話であり、
そういう中で、この提携はWin-Winの構築になるのではなかろうか。
シャープは製造経費を抑制できるし、鴻海は稼動を高めることができるからだ。
シャープを含む家電業界は、度重なる円高のダメージを受けており、それが
人件費や開発費、電力料等のインフラコストといった各コスト領域で大幅な
ハンデを背負っている。家電業界では、日本市場はともかくグローバルでは、
近年韓国メーカーが席捲しているのが現状だ。韓国メーカーの強みは、ウォン
安を活かした価格攻勢、それに伴う販売数量増(購買競争力増)、デザイン重
視の商品企画力、マーケティング攻勢にあると言われている。
テレビは、いうなればコモディティー化した商品である。こうした状況下では、
収益獲得モデルを構築するにあたり、ベースコストをいかに抑制するかが重要
である。(そうしてみると、フェラーリやポルシェといった高級車ブランドが存在
する自動車業界と比べ、家電業界はよりシビアな価格競争下に置かれている
と言える)
今回の提携は、買取需要真っ盛りの中国市場における、先行者利益の
刈り取りが主眼と見る。技術提携は、富裕層をターゲットとした大型液晶
ではなく、ボリュームゾーンセグメントであり、技術供与は、韓国メーカーに
打ち勝つために必要という経営判断が働いたのだろう。
ボリュームゾーンにおける確実な収益の刈り取り。
だぶついた供給能力下における、Win-Winの構築。
この業務提携は、苛烈なグローバル競争の一端を垣間見ることができる。
※今後も、取り上げて記事化するものは、グローバルナンバー1というより
中堅処をメインにしていく。